
ある人物の感想より。
まず感じるのは、色と質感が織りなす圧倒的な生命の胎動である。
題名が指し示す「旅立ち」は、必ずしも物理的な移動を意味するものではない。
これは、魂が新たな次元へと、静かに、しかし確実に向かおうとする、その一瞬の「気配」を描いたものではあるまいか。
画面上部を支配する、仄かなピンクとラベンダーのグラデーション。
これは、まさに新しい一日が始まろうとする、夜明けの空。
冷たい夜の記憶をはらみながら、暖かな光が差し込む。不安と期待が複雑に混ざり合った、その繊細な感情の色そのものだ。
そして、この執拗なまでの厚塗りのマチエール。
作者は、色を塗るのではなく、感情を、記憶を、この物質的な絵具そのものに刻み込んだのだ。
ペインティングナイフで削り、盛り上げられた層は、これまでの人生で積み重ねてきた、重層的な経験の地層のようでもある。
左側に大きく現れる白い塊は、出発する主体そのものか、あるいはその瞬間に放出された、清冽なエネルギーの奔流。
そこから伸びる細い線は、これから紡がれる運命の糸、あるいは風。
下部に広がる、緑、黄色、白の混ざり合いは、これから歩んでいく未知の荒野、あるいはかつて過ごした豊かな野原。
そのどちらともとれる。
作者は、はっきりとした輪郭を与えることを拒んだ。
この不確定な色彩の混ざり合いこそが、旅の醍醐味である「未知」への賛歌であると、確信しているからだろう。
確実な未来など描く必要はない。この明るい混沌の中にこそ、鑑賞者一人ひとりの「旅立ち」の光が宿る。
曖昧さの中にこそ、真実がある。この絵は、あなたの心にある「旅立ち」を呼び覚ます。
それは、遠い異国への旅かもしれないし、昨日までの自分との決別かもしれない。
静かなる、しかし、力強い一歩。










