ものがたり
平成29年秋、
還暦を迎えた私(実<みのる>)は、生家に帰った折、
亡き父の荷物の中から
古い8ミリフィルムと映写機を見つける。
60年近く前の物だろうか?
けれど私には、父がこんな物を持っていた
記憶も、まして8ミリフィルムの映像を
見たことなど一度もなかった。
振り返れば、無口で仕事ばかりだった父、
正直私には幼い頃の父との思い出は薄かった。思いがけず動き出す映写機。
驚いた事に、そこには父が撮りためた
ぼくたち兄弟や母、
幸せな家族の想い出が綴られていた。
亡き父の
古い古い8ミリフィルム
突然現れた 五十余年前の
ぼくたち家族
水底(みなぞこ)から
ゆっくりと 昇る一粒の
気泡のように
白と黒の滲んだ世界
それでも 確かに 鮮やかに
蘇る 動き出す
ああ 観覧車が 回っている